【重版出来!17巻】「中田伯」は、笑ったのか??黒塗りの表情を考察する

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漫画『重版出来』17巻が、発売されました。

これまでも面白かったけど、17巻はグイグイ惹きつけられる勢いと面白さがあり、読後感も素晴らしかったです。

17巻の構成を簡単に説明すると、前半が中田伯作「ピーヴ」アニメ化に向けての制作のアレコレ。

中盤に1本、アシスタントさんの目から見た、漫画制作の歴史や秘話的なストーリーが入り、後半は、中田伯のお父上が亡くなります。

どのストーリーもとても面白くて、ワクワクして、ハラハラします。

その中でも、間に入る伝説のアシスタントのストーリーは、漫画のアナログ時代を知っている人や、アナログで描いた事がある人なら、懐かしく、『そうそう!!』と共感の嵐が吹き荒れる事間違いなし。

アニメ制作の話もそうですが、やっぱり『重版出来』の面白さや醍醐味は、編集の裏側や、モノづくりについて知ることができる所なんですよ。

そして、五百旗頭さん、かっこよかった。

中田君の「ピーヴ」がいよいよアニメ化!重版出来17巻あらすじ

という所で、『重版出来』17巻のあらすじです。

週刊誌「バイブス」の編集長が五百旗頭さんに変わり、「ピーヴ」にアニメ化の話が来て、心ちゃんが中田君の担当に戻るところで、前巻終了しています。

17巻は、担当に戻った心ちゃんが、改めて中田君にご挨拶している所からです。

作中のキャラクター「ドルク」に取り込まれ、メンタルに不調をきたしていた中田君ですが、規則正しい生活と、アユちゃんという心の光を手に入れ、書き溜めたネームと共に、連載再開及びアニメ化に向けて前進しています。

そう、休載中に中田君は、アユちゃんのアルバイト先(ファミレス)でネームを作ったりして、彼女と親交を深めていたんですね。

お忘れの方もいるかもしれませんが、アユちゃんは、「ピーヴ」のヒロイン「アスミ」のモデルとなったお嬢さんで、中田君の初恋の相手です。

そして、いよいよ具体的になるアニメ化の話。

ここで、横領で退職した前編集長、相川氏の置き土産により、事態は一旦後退してしまいます。

中田君のイメージに合い、本人も気に入っている新進の制作会社にアニメを任せる予定だったのに、相川は、自分が懇意にしていた制作会社に勝手に話を持ち掛けていたのです。

その後、ややあって中田君の意向が汲まれ、上手くいくと思い始めた矢先に、作家の意向や気持ちと制作側の解釈の違いという悩ましい事態が起きます。

それまで、他人に理解を求めるという事をしてこなかった中田君は、状況を打開する努力の仕方も分からず、あきらめムードで、メンタルにも不調をきたします。

心ちゃんも、どうにか双方意思の疎通を図れるように、アレコレと画策しますが・・・。

お喋りでコミュニケーション上手で、自分の気持ちを表現できる高畑先生ならこういう事も纏まるのでしょうが、中田君だとそうはいきません。

この辺りのエピソードは非常に面白く、アニメ好きならすごく読み応えのある内容だと思います。

最近は、昔と違って原作に忠実なアニメが増えてきているけれど、『なんか、こういう事なのかな』という気持ち。

ほぼ話が固まっている時点でも、「発表がまだだから白紙に戻せる」という五百旗頭さんのセリフや、最悪の事態を想定して、いくつものシナリオを用意しておくメディア部と制作会社の完璧な陣形は、クリエイティブ業でありながらも、しっかりとビジネスなんだなぁと感動してしまいます。

個人的には、中田君が製作者達に「神」と言われているの、好きでした。

わかるっっ!!

伝説のアシスタント回は、懐かしさの連続!かけ網は私も練習しました

その後、16巻で少女誌から引き抜いた野口先生と心ちゃんの打ち合わせが入り、伝説のアシスタント回が挿入されます。

野口先生は、離婚をきっかけに実家に戻り、その環境を踏まえて、作画をアナログからデジタルに移行している最中です。

住環境が整わなかったり、アシさん達とも離れてしまう為、データでやり取りできるデジタル化は、これからは必須なようです。

(それまでは、最後にアシさんがデジタルにしてくれていたようだ)

そこから始まる、アナログ・デジタル談義は、古くから漫画を読んでいた人や、漫画を描いていた事のある人なら、涙が出るほど懐かしかったり、共感したりとワクワクドキドキ。

かけ網やナワアミ、私も実は練習しました。

アナログは間違えたらホワイトで修正しなければいけないし、ペン入れも一筆入魂の真剣勝負。

トーンを貼るのだって、カッターで職人作業。

しかし、デジタルはやり直しがきくし、カケアミできなくても大丈夫ですからね。

デジタルが真剣勝負じゃないわけないんだけど、やっぱりそこは、違います。

デジタルにはデジタルのすばらしさ、アナログにはアナログのすばらしさ。

どちらを否定するでもない「伝説のアシスタント」回は、読んでてとても清々しく、そして懐かしく、17巻のボリュームの中で、とても良い役割を果たしていました。

中田伯は笑ったのか?父上の葬儀と同化

さて、物語後半は、中田伯の父上がお亡くなりになります。

病院から連絡を受ける中田君。

一度は電話を切るものの、しかし、どこからか聞こえる「すべて見よ。」という言葉。

これは、実は以前、漫画家たるもの、この世のすべてを見て、糧にせよと、三蔵山先生から授かった言葉。

結局、中田君は病院まで出向き、遺体を引き取り、火葬を済ませました。

中田君は、父親からは暴力を受け、母親からはネグレクトをうけていた生い立ちがあり、大きくなってからは両親と疎遠になっていましたが、一度訪ねた施設では、父親が既に認知症になっている姿を見ています。

父親は、漫画家になった息子を自慢していたようですが、虐待していた負い目から逃げるためか、はたまた、成功した息子と自分のちっぽけな人生(父親は、事業に失敗し、伯に暴力を振るうようになった)を照らし合わせ、妬みや嫉みもひっくるめて、人生をすり替えたかのように、彼は自ら中田伯と名乗っていました。

そんな姿を見た中田伯は、負の感情をぶつけるべきキャラクターであった、悪役ドルクのモデルを失い、その感情は路頭に迷い、更には役に取り込まれてしまいます。

(第13巻後半以降参照)

さて、話は戻って17巻。

遺品があると連絡が来たため、施設へ訪問する中田。

亡くなる間際、「ピーヴ」の単行本を介護員に買ってこさせては、自分が中田伯だと騙りサインを書き、本を配りまくっていたという事実を聞かされる中田君。

人の生き死に、父親の最後、全てを見届けた中田君は、新幹線で描いたネームを渡しに編集部へ寄りますが、その時、誰かが中田伯を名乗って書いたであろう、サイン付き単行本の写真がSNSに上がっていると心から知らされます。

父親の仕業だと気づく中田君。

しかし、それを見た表情は、黒塗り・・。

果たして・・、このとき彼はどんな表情をしていたのか。

いや、ここにきて考察要素・・・って・・・。

このコマ、実は作者の松田先生、描けなくて潰しちゃったんじゃないかという疑念・・。

(先生ごめんなさい・・)

このコマの表情を想像するのは、とても難しいですね・・・。

それまで、ネガティブな感情だけを原動力にしていた中田君は、アユちゃんや栗山さんと接するうちに、人間を学んでいきます。

それにつれ、すべて見た中田君には、何が起こったのか。

無表情だったり、憎しみがにじみ出る顔なら、きっと2コマ目の心ちゃんの『え?』という表情は、ないですよね。

だって、彼が父親の事を憎んでいるのは知っているし、そんな表情見慣れているから。

じゃあ、何もかも吹っ切れて笑った顔や、穏やかな笑み??

う~ん、まだあり得ない気がするな。

ほんの少し前、彼は父親の遺品を駅のゴミ箱に無下に捨てていたから。

では、泣き顔???

あり得るけど、そうしたら、心ちゃんの反応は、びっくりではなく、もっと気持ちに寄り添う顔になったでしょう。

で、そこに入るセリフは『え?』ではなく『あ・・。』のはず。

中田君、もしかしたらここで、復讐が済んだような、ザマァミロ的な笑みを浮かべちゃったのではないでしょうか。
(因みに、中田伯の父親の死因は、息子の漫画を口に詰め込んだことによる窒息死のようだ)

当初、私はなんとなく泣き笑いかなと感じていましたが、それはきっと普通の人生を送ってきた者の想像力。

そんな表情は、自分が死んだあと子供にして欲しい表情であり、虐待をされていても、最後は悲しんで欲しいという親の欲求の現れです。

でも、実際に虐待を受けていた子供にとっては、親が亡くなる瞬間は、その長い歴史が終了し、自分を侵す人間が消滅し、自由を手に入れる瞬間。

中田君の今までのつらい経験は、すべて創作の原動力となってはいますが、彼の闇は深い。

14巻ではピーヴの悪役、父親をモデルとしたドルクと自分の区別がつかなくなり、休載しています。

遂に父親が亡くなり、自由を手に入れた彼は、父親を超えたと確信し、虐待していた親が自分の事を少しでも自慢に思っていた事に満足し、復讐を終え、開放されたのではないでしょうか。

一瞬、ドルク(父親)と同化し、自分の中にも強烈な攻撃性がある事を認めた中田伯に対し、最終的に自分の過去に蓋をして、息子の栄光と同化して人生の幕を閉じた父親。

中田伯は火葬の際、係員の目を盗み、骨をひとかけ持ち帰ります。

自分の中からつきものが落ちたように消滅したドルク像。

結局自分は父親に囚われていた事に気づき、父親もまた自分と同化していたのだと悟った彼は、父親の骨をインクに落とし、漫画家として新たにドルクに命を与えます。

何物にもとらわれず、次の人生を描く中田伯の背中は、既に自分の人生は自分のものだとふっきれている雰囲気が感じられました。