藤本タツキ『ルックバック』の感想が素晴らしいしか思いつかない。

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ジャンプ+(少年ジャンプのWEB漫画のサイト)で公開された、藤本タツキ氏の『ルックバック』。

セリフは極力少なく、143ページという空間を贅沢に使ったコマ割りと、惜しみなく使用される見開きに情緒的に表される時間の流れ。

SFでもなく、バイオレンスでもダークファンタジーでもない、ちょっぴりファンタジーが入ったストーリーもの。

行間を読ませるその作風は、大変失礼ながら『この人、こんな作品を描けるんだ・・。』と軽い衝撃。

数度読み返し眠りについて、今日は余韻に浸りながら感想などを書いています。

元々映画的な演出をする作家さんですが、今回の作品は、日本映画的な間の取り方や演出でした。

恐らく作者の自伝的な作品のような気がしますが、自分語りな感じや、押しつけがましさを感じさせない所がまた秀逸。

(『ファイアパンチ』では、あんなにくどくどやってたのにね)

藤本タツキさんはもっぱら男性だと言われていますが、私はこの作品を読んで、何となく女性なのかな??という気持ちになったんですが、皆さんはどうですか?

『ルックバック』の主人公が女性だからではなく、今回の作風が、少女漫画のそれだったので、そんな風に感じました。

漫画は作品を楽しむものであり、作者の性別は全く関係なく、言及するべきですらないのですが、作者が男性の漫画は、心理描写が論理的だったり、心情を詳しく語る部分が多かったり、状況が解説されることが多いので、ちょっと珍しいなと思ったんです。

惜しむらくは、やっぱり、スマホでは見開きが楽しめない事。

藤本作品につきものの、効果的な見開きシーンが、やっぱりスマホだと見切れちゃうのです。

あと、ページをめくる時のときめきや衝撃に欠ける・・。

見開きが見切れる・・。

韻を踏んでる場合じゃありませんが、スマホで読んだ時なんて、画面を半分スワイプして、また戻してと、パラパラ漫画の様にして、脳内で見開きに変換させていたりしましたからね。

これはやっぱり、紙で読みたい漫画です。

でも・・、本誌じゃ140ページも使ってあの贅沢な表現はできないだろうから、仕方ないのかもしれませんね。

というか、WEBがあるからこそ、新たな試みのような事ができるのだから、感謝しなくてはいけない。

『ルックバック』という言葉について

さて、この作品のタイトル『ルックバック』。

ルックバックの意味は、「振り返る」とか「回顧」とかそんな感じの意味合いで使う言葉なんですが、きっと、作者の回顧録というか、人生の振り返り的な作品なのかなという気がしています。

作中には、多くの背中のショットも出てきていてキーワード的な役割もするし、作品のラストで振り返った先にはきらめく思い出というか、きっかけが見つかったりもするので、作者がルックバックという言葉に込めた思いは色々な意味合いが含まれている事は感じますが、個人的には、自分の人生を振り返り、それに合わせて背面の描写を持ってきたのかと思っています。

主人公たちが暮らしている、ちょっと田舎な街も、藤本タツキ氏の出身地、秋田県のにかほ市かもしれません。

登場人物は2人いますが、私はどちらも、藤本タツキ氏本人を描いているのではないかと思います。

内的自分と、外的自分。

物語の後半に、京本が描いて藤野に贈った4コマ漫画のタイトルは「背中を見て」。

起承転結のある面白漫画ですが、外的自分である藤野が、内的自分である京本を救って、その刃を受けたまま立ち去る漫画。

刃を受けても立ち上がれるメンタルを身につけて、プロの作家である藤野は最後、描き続けます。

私は以前、チェンソーマンの記事で、「厄介オタクと化したマキマは、作者がそのままマキマを厄介オタクとして描いているのではないか」と書いたことがありますが、この4コマ漫画も、その類のものではないかと思うのです。

世に作品を出すという事は、常に評価や余計な考察がついて回りますし、既に出ている漫画のパクリだの言われたことは多そうです。

現に、チェンソーマンがアニメ化される事が決定した時に出した、藤本タツキさんのコメントは、なかなか痛いものがありました。

しかも、人気作ともなれば、私の様に、余計な考察とか批評をする人も沢山いますからね。

連載中、飲み込まれそうになったことがあるのかもしれないし、辟易としていた事でしょう。

しかし物語では、藤野はその刃をうけたまま、何故今まで描く事を続けてきたのかに気づき、新たなステップへと旅立ちます。

ラストは、また背中のショットで了という感じですが、その状態は、プロの漫画家である藤本タツキ氏の今の状態。

『チェンソーマン』の第一部を終わらせて、140ページもよくも仕上げたなというか、それくらいこれを描きたかったのかなという感じです。

今日は考察っぽいことをちょっと書いてみましたが、『ルックバック』は、そんな考察なんかより、普通に読んで、ただただ素晴らしさを感じて欲しい作品だし、スタンドバイミー的ビタースウィートな気持ちになれる、希少で素敵な作品です。

『あ~あ、自分も大人になっちゃったな』と思い、自分の背中はいま、どうなっているのかなと思い返したり、しなかったり。

『ルックバック』は今、ジャンプ+で普通に無料で読むことができます。

WEB漫画になれていないと素晴らしい見開きやコマ割りに気づかない事もあるので、注意深く読んでみて下さいね。

一応PCとかなら、ちゃんと見開きも処理されています。

それではまた。

厄介オタクのマキマさんについて書いた記事はこちらです。