2020年9月、いよいよ佳境の『チェンソーマン』。
ここにきて、色々な謎が解き明かされたり伏線の回収がされ始め、一気にクライマックスに向かっているようです。
そんな中、マキマさんの思想やこれまでの世界観に触発されて、作者藤本タツキ氏の前作『ファイアパンチ』に興味を持つ方も増えたのではないでしょうか??
実は、私は以前『ファイアパンチ』を5巻くらいまで読んでいたのですが、挫折しています。
作風もそうだったんですが、当時はまだ連載中だったので、「追いつけずに諦めた」という感じです。
だけど、『チェンソーマン』ここ2カ月くらいの展開で、やっぱりファイアパンチは読むべきかなと思い、一気読みした次第です。
漫画家さんには作風や好みとか癖がありますが、『ファイアパンチ』は、『チェンソーマン』のベースとなっているだろう部分もあるので、気になっている人は是非読んでみて下さい。
『ファイアパンチ』は、「JUMP+」で連載していた藤本タツキの漫画
『ファイアパンチ』とは、現在週刊少年ジャンプで『チェンソーマン』を絶賛連載中の漫画家、藤本タツキ氏が2016年4月18日より2018年1月1日まで、「JUMP+」で毎週月曜日更新で連載していた漫画です。
「JUMP+」とは、集英社が発信しているWebコミック配信サイトで、『スパイファミリー』が連載しているのもここですね。
サイトはちょっとごちゃごちゃしていますが、無料で読める漫画も多数あり、サービスも結構充実してるのでおススメです。
紙媒体が衰退している今、今後こういうサービスが主流になっていくのかな~??
話は戻って『ファイアパンチ』。
この漫画は、一言でいうと「世紀末もの」や「終末もの」のジャンルになると思われます。
『マッドマックス』や『北斗の拳(ふるっ)』は、石油や水が枯れ果てた、灼熱の荒野でストーリーが展開されますが、『ファイアパンチ』の舞台は、氷に閉ざされた世界。
どちらの世界も、貧しいです。
そんな中で、身体を再生出来たり、炎を使えたり、電気を使えたりと、特殊な能力を持っている者がいるんですよ。
この特殊能力者は結構な割合でいるのですが、この人達は「祝福者」と呼ばれています。
「祝福者」と聞いてピンとくる方は多いと思いますが、この漫画のテーマの一つは、宗教とか信仰です。
世界観としては、『少女終末旅行』に多少近いかな~??
思想とかでなく、寒々しい所とかね。
終末ものあんまり読まないんですいません。
この話を超簡単に説明すると、自分の住んでいる村を襲撃され、妹を殺された主人公「アグニ」は、復讐のために生きることを誓います。
しかし、自分の行動に疑問を感じ、後悔しながらも深い闇は解消されないまま。
炎に包まれた姿やその行動を崇める人たちにより、アグニは意図せず神に祀り上げられますが、肝心のアグニはそれに戸惑うばかりで自分の居場所が見つけられない。
ややあって、主人公は自問自答を繰り返したり、贖罪の行動に出たりする・・・、という話です。
第一印象としては、「深い貧困と絶望の環境下では、人を動かすのは暴力ではなくて、宗教であり信仰であり集団ヒステリーだ、怖い・・・」という感じ。
私が昔勤めていた会社の社長(今は故人)は、「第4次産業は宗教だ」と言ってましたが、あながち冗談ではなかったのだなと思います。
飢えと貧困と寒さの境地で作られる偶像や集団心理は、漫画の描写と相まってとても寒く、恐怖に凍りついた世界が広がります。
『ファイアパンチ』あらすじ
『ファイアパンチ』は、コミックで全8巻と短めです。
短いけれど、内容がとても濃いです。
コマ割りが小さいわけでもないのに情報量が多く、世界観などもよく伝わってきます。
時は今から千年以上の未来。
詳しい年号は既に分かりません。
だって、前世代の地球人たちは、氷河期に入った地球に見切りをつけて、ほかの星へ去ったから・・。
今や地球は氷の世界となっていて、食べ物も尽きようとしています。
しかし、氷に覆われた貧しい世界にも、人類はまだ生き残っていて、わずかな食料と供に生き延びています。
とある貧しい村に住む再生の祝福者「アグニ」と「ルナ」。
2人は兄妹で、助け合って生きていますが、この村にはもう若人はいません。
そんなある日、「ベヘムドルグ」から来たという軍隊の襲撃を受け、村は焼き尽くされてしまいます。
ベヘムドルグの軍人「ドマ」は炎の祝福者であり、その炎は、焼かれたものが焼け朽ちるまで消えることはないとの事。
アグニも炎に包まれたものの、強い再生能力のせいで死に至らず、燃え続ける炎を纏う人間となりました。
兄より再生能力の弱いルナは、再生の前に焼け死んでしまいます。
焼け続けながらも再生していく苦しみの中で、常に炎を身に纏うファイアマンとなったアグニは『ベヘムドルグへ行き、妹を殺したドマへ復讐する』と誓う。
という感じで、序章は終わりです。
序章はあくまでも序章で、話の本質は復讐劇ではありません。
そんな感じの部分もありますが、ベヘムドルグへの移動後、話の中盤までは、近未来SF感の強い作品となっています。
途中で出会う、生きる事に飽きた再生の祝福者トガタ。
サンやネネトなどの子供達。
この世界を救ってくれるかもしれないとアグニを神格化する人々。
人々と交流するうちにアグニは色々な事を考えるようになりますが、ヒューマンドラマではありません。
エピソードはありますけどね。
ベヘムドルグの教祖を演じているユダ等、登場人物はふえますが大きな勢力とはならず、大きなバトルにもならず。
後半、主人公は自問自答を繰り返し、強い思想と哲学の世界が展開します。
途中削って長編読みきりでもよかったと思うけど、『ファイアパンチ』はその閉塞感や世界観から、濃いというか、メンタルに影響する漫画です。
『ファイアパンチ』感想
という事で、『ファイアパンチ』全8巻を一気読みした感想・・。
つ、疲れた・・・。
い・・、意外と壮大な物語だった・・。
こりゃ、本誌やSQでは連載しにくそうだ。
ていうか、小学生にはまだ早い。
怖いもの見たさの中二病にもまだ早いかも。
いや、中学生くらいなら逆に読んで欲しいか。
最後の最後まで漂う終末感と閉塞感。
第一話からカニバリズム。
そうだ、私はこの漫画の、この閉塞感が苦手な事もあって、途中で挫折したんだった・・。
私はね、もう、人生の後半は楽しいことや美しいものだけを見て過ごそうと思っていたの!!
鬱展開や救いのない世界、自己の暗い部分を振り返るなんて、若い時にさんざんやってきたの!
でも、手元にあれば、降りる事の出来ない真剣勝負。
私は後悔した・・。
『ファイアパンチ』を読んだ事を・・。
自問自答を繰り返し、自我が崩壊する主人公。
繰り出されるファイアパンチどころか鬱パンチに、読者は立ち上がることができません。
新展開を匂わす祝福者たちも、大した活躍を見せずに退場し、場面は一貫してシリアス。
苦しさと閉塞感で息もできません。
『ファイアパンチ』は、ストーリーとしては一貫したテーマがあって結構完成されているけれど、読者が感情移入できるキャラが少ないので、ちょっと読みにくいかもしれません。
それを考えると『チェンソーマン』のキャラ付けは上手くできているよなぁと、感心させられます。
結局漫画って、その世界に入っていけるかが大事な部分だと思うんですよね。
しかし、この漫画の最終回というかラストは素晴らしいです。
風呂敷を広げてたためなかったり、〇年後みたいにお茶を濁してなかったことにするラストが散見されるなか、よくもこんだけまとめたなぁと、何目線よとか言われそうですが、感動しました。
どれくらいまとまってるかというと、この人はラストから描き始めたのかというくらい、話がまとまっています。
完結まで8巻というのもよかったのかもしれませんね。
ネタバレすると、ラストには結局〇年後は使われています。
けれど、ここがこの漫画のすごい所で、〇年後の世界を見せられても納得できるんですよ。
トガタ言う所のカタルシス。
(あ、トガタは『ファイアパンチ』の登場人物です)
ラスト数ページの精神世界や説明文はちょっと疲れたけど、小説についている挿絵だと思えば納得できます。
私は、この手の漫画でここまでキレイに納められたものを読んだのは久しぶりです。
8巻後半部分だけでも、『ファイアパンチ』には読む価値があると思います。
心に余力がある人はぜひ、「生きて」この漫画を読んでみて下さい。
それではまた。