【3月のライオン】15巻で、零が手に入れて失ったもの

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12月に発売された「3月のライオン」第15巻。

今回れいちゃんは、自分の居場所や大事なものを手に入れたと同時に、集中力や貪欲さを失って、自分の弱さや経験値のなさ、更にはずっと騙していた心の奥底に気づきます。

 

長くて辛い対局を経て、暗い闇に落ちていたれいちゃんを救ったのは、ひなちゃんからの連絡と、一皿の温かいシチュー。

 

まだ幸せだった頃を思い出させるそのシチューは、その後れいちゃんを苦しませるものにもなります。

 

温かい居場所は、気を散らせる逃げ場所でもあるのか

 

今回のれいちゃんの将棋は、勝ててはいるものの、相手の熱量や気迫、将棋に対する考え方の違いなどに押されて、試合に勝って、勝負に負けるみたいな将棋となっています。

 

常に悩んでしまう人なので、今までが順調だったかというとそうでもないのですが、勝ち星だけは順調に積み上げてきています。

 

将棋の対局とは、事前に相手の打方などを研究したり、これまでの棋譜や資料を頼りに作戦を立てたり、予想をしたりするものらしいですが、作戦が外れたり策が尽きると、あとはその時次第のアドリブという事になります。

このアドリブのターンを「真っ暗な部屋」と、れいちゃんは呼んでいます。

 

そして、『最近は、この真っ暗な部屋に辿り着くのが早くなった・・。』と。

 

この理由についてはコミックの方でれいちゃんが語っているのでここでは書きませんが、れいちゃんを救った温かいシチューが、今度は集中を欠く原因の一つである、贅沢な苦しみとなって襲い掛かってきます。

 

昔から言いますじゃろ、「受験に恋愛は大敵」と。

この場合、直接的な原因は恋愛じゃないと思いますが、そんな感じで読んでいました。

 

諸刃の剣である居場所、健全であるためには必要なものが、持たない者には戸惑いのもとに・・

 

普通に考えたら、居場所を手に入れて帰る所ができたれいちゃんはやる気満々で無敵状態・・、となりそうですが、違うみたいなんですよね。

 

この部分を即座に理解できなかった私は、もしかしたら幸せな人生を歩んできたのかもしれません。

 

元々心に暗い闇を持っていたれいちゃんは、失くすものも帰る所もなく、自分には将棋しかないと思っていて、精神をすり減らす集中という闇の世界に落ちるのもさして苦ではなかったのでしょう。

 

それが、温かい居場所と大事に思える人たちを手に入れて、そこは逃げてしまいたい場所になっていたのかもしれません。

 

そしてそれは既に、失いたくないものの一つでもあり、『失ったらどうしよう。』という、漠然とした焦りや不安と恐怖を生ませるものになっているのかもしれないと、私は理解しています。

 

これまでは、ずっと暗くて闇の底にいるのが普通だったから、更に暗い所を彷徨うのも普通。

だから、さして苦にはならなかった。

それが、暖かい場所を知り、そこと闇を行き来するスイッチを、うまく切り替えられないれいちゃんにとって、将棋の世界はもともと好きな世界ではなく、自己証明のために必要なだけの、ただの苦痛な世界だったのかもしれないと思わせる描写が、いくつかあります。

 

持ち前の頭の良さと並々ならぬ努力でここまで来たけれど、本当は、逃げ場があったら逃げてしまいたかったのかもしれません・・。

 

真っ暗な部屋に来た時にシチューを思い出して、パニックになったれいちゃん。

 

そこは、逃げてしまいたい場所なのか。

それとも、対局に負けたら帰れなくなる(と、勝手にれいちゃんが思い込んでいる)、失ってしまうかもしれないと不安にさせる場所なのか。

 

『居場所を守るために、一層頑張る。』という考えに及ぶのは、私のような雇われの身で大人で、逃げても何とかなる人間の考え方なのかもしれません。

 

その時その時結果を出していかないと、自分の価値はないと思っているらしいれいちゃん。

 

野火止6段との対局に、ガッツの違いや温度差を見せつけられ、田中7段との対局では、背負ってきたものの大きさの違いに恥じ入る零。

 

長く生きてきた私から見れば、若者特有のデリケートな悩みに見えますが、渦中のれいちゃんにはつらい。

 

ここで、ずっと、本当は知っていたけど今まで気づかないフリをしていた「ある事」について、れいちゃんは認めざるを得なくなります。

 

この先、れいちゃんがどう自分の気持ちに落とし前をつけて、どんな結論をだすのかとても気になります。

 

一応私はいくつか予想を立ててはいるのですが、こういうのを書くのは、作家さんが嫌がる事かもしれないので内緒にしておきます。

 

ただ、今回最後に、れいちゃんが一つまた自分と折り合いをつける事ができた、と思わせる場面があります。

 

昔、一条ゆかりの『プライド』という漫画でも、似たような場面を見ました。

主人公に物凄くショックな事があって、すごく泣いた後、泣きはらした後の無表情なひどい顔で、リンゴをかじる場面です。

 

以前なら、『もう死んでもいいや』と自暴自棄になる場面で、食べる=生きることを選ぶ重要な場面です。

 

れいちゃんはこれから、活き活きと出来る別のステージへ行くのか、同じ所に留まり、活き活きと輝くもう一つ上のステージへ登るのか、それとも・・。

と、ドキドキハラハラの15巻ですが、決めるのは、今度はれいちゃん自身の強い意志なのだという、一筋の明るさをもって、16巻へ続く。

 

次の巻は、二階堂君と島田八段が出てくるといいなあ。

それではまた。

「3月のライオン」、まだ読んでない人は読んでみてね。

漫画に出てくるコーンシチューが気になる方はこちら。

考察付きです。