『坂道のアポロン』/小玉ユキ/小学館
久々に、心が洗われるような漫画を読みました。
『坂道のアポロン』。
この漫画は「月刊フラワーズ」で、2007年から2012年まで連載され、2009年の「この漫画がすごい!2009オンナ編」で第一位となった作品で、第57回小学館漫画賞も受賞しています。
アニメにも実写映画にもなっているのですが、実は全然知りませんでした・・。
2007年・・。
私がしていた事と言えば、子育てに家事。
読んでいた漫画は、『カバチタレ!』とか『HUNTER×HUNTER』??
子供が生まれて、恋愛要素の強い少女漫画への興味は、いつの間にか冷めていった・・。


友人に、「最近『坂道のアポロン』を読んで心が洗われている。」と話したら、「知ってますよ!!ザブザブですよ!」とよく分からない面白リアクションが返ってきました。
なんか、この漫画の事を話すときは、ピュアで変な感じになっちゃうんだね・・。
『坂道のアポロン』は、川底に光るガラスの石のような物語
『坂道のアポロン』は、儚く、繊細で透明な川底で光る小石のような青春群像劇。
爆発する感情を制圧できなかったり、あと一言を持っていなかったり、うまく言葉にできないもどかしさを後悔したり。
きらめくような青春でありながらも、甘くほろ苦い思いを抱える若者の姿は、同世代なら共感を、過ぎ去った過去を思い出す世代なら、締め付けられるような切なさを感じさせる作品となっています。
舞台は1966年、長崎。
携帯電話どころか各家庭に電話があるのもめずらしい時代だけれど、1966年は確実にもはや戦後ではない時代。
主人公「西見薫」は、父親の仕事の都合で転居してきて、叔父の家に世話になっている。
父親が、船の仕事でしょっちゅう家を空けるためです。
父親の詳しい仕事は書かれていないけれど、横須賀から引っ越してきた事や、舞台が長崎なこと、転校が多かった事などを考えると、海上自衛隊の医師だったのかなと推測します。
聞き分けがよく、大人びていて秀才の薫は、子供のころから転校を繰り返していましたが、それなりに上手くやっていました。
しかし、転校した先々でうまくやろうと無理をしていた結果、ある日をきっかけにと人付き合いができなくなります。
生き辛さを抱えたまま人と接する機会を失ったまま高校に上がった薫。
ひょんなことから知り合った「川渕千太郎」や「迎律子」と仲良くなり、ジャズをきっかけに素の自分を出せるようになっていきます。
千太郎は、薫とは対照的に太陽のような人物で、自分の周りに壁を作らないかのように見えますが、彼もまた、自分の置かれている環境などから、生き辛さを抱えています。
物語では要所要所にジャズが使われていますが、この漫画は音楽漫画ではありません。
ジャズは物語のスパイスであり、重要な要素でありますが、曲名などは知らなくても、読み進めるのには全く障害となりません。
このへん、『ジャンルが合わない』とか、『ジャズとか興味ない』という人でも大丈夫なので、安心してください。
薫・千太郎・律子を中心に、クラスメートや美女の先輩、東京で大学生をしている近所の兄貴。
ジャズバーや学生運動、たくさんいる兄妹や長屋の住宅。
戦後間もなくの世界を描くのとも全く違60年代は、その時代特有のノスタルジーを醸し出してきます。
2020年と1966年は、ちょっと違うけれど、よく似ている。
いつの時代も青春は青い春であり、若さは悩む年頃なのだ。
『坂道のアポロン』登場人物
それではここで、簡単に登場人物の紹介をしてみたいと思います。
『坂道のアポロン』登場人物
西見 薫
この物語の主人公。
将来は医学部へ進学するほどの秀才で、ピアノまで弾ける。
頭がいいのでよく悩む。
川渕 千太郎(かわぶちせんたろう)
一見不良。
ケンカも多く、地元では札付きの不良と言われているが、色々と事情がある。
薫とはひょんなことから仲良くなり、ジャズを通してお互いを理解していく。
薫には太陽のようにあけっぴろげな部分を見せるが、彼もまた、生き辛さを抱えている一人である。
迎 律子(むかえ りつこ)
転校してきたばかりの薫に校内を案内したことや、千太郎の幼馴染であったことなどで、仲良くなる。
分け隔てのなく人に優しくできる子で、素朴で嫌みが無い。
母親はいないようだが、家庭に問題を抱えている千太郎や薫に対し、ごく一般的な家庭で愛されて育った子の特徴を持つ。
深堀 百合香(ふかほり ゆりか)
大人っぽく見える美女だが、実は薫と同じ高校のひとつ先輩。
都会から越してきたらしい。
絵にかいたような「上品でうつくしいひと」で、絵にかいたようなお嬢様。
桂木 淳一(かつらぎ じゅんいち)
千太郎が「淳兄」と慕う近所の大学生。
頭もよければ音楽もできてスポーツ万能というチートキャラ。
頭がいいだけに東京の大学に通っている。
丸尾君
所々で物凄くいい味をだしている愛すべきちょいキャラ。
しかし、彼は結構多趣味なのだ。
このほかに、律子のお父さんや、千太郎の兄弟などが登場します。
そんなに登場人物は多くないですね。
『坂道のアポロン』の感想と魅力
『坂道のアポロン』は、本当に繊細で丁寧に描かれた漫画なんですが、主人公の薫が結構負けず嫌いなんですよね。
ちょい役の丸尾君も、いい味を出しています。
少しおっとりしている丸尾君は、薫に初めて声をかけてきた男の子。
ほんとにほんとのちょい役なんですが、彼はこの漫画には、無くてはならない存在なのです。
舞台が長崎という事もあり、のんびりしていてちょっと田舎な部分が、薫にとってもとてもいい影響を及ぼしていたんじゃないでしょうか?
実はこの漫画、エピソードの数々や人物設定などはかなりオーソドックス。
60年代の青春群像物の小説を読んだ事がある方は、どこかで読んだという既視感を持つかもしれません。
でも、当時の小説風のエピソードに現代の感覚を取り入れているので、ちょっとしたセリフやツッコミ、感情の描写に違和感がなく、読む者の心にすっと入ってくるのです。
まず、ちょっとしたセリフがいいです。
絵もキレイで読みやすく、読む人を選ばない作風。
『もう青春ものとか読めない。』とか、『思春期のアレコレしてる漫画とかもう無理』と思っている人でも、ページをめくればいつの間にかその世界に入り込んでしまうという魅力がこの漫画にはあります。
悩む場面も多い漫画ですが、解決まで展開が早く、もどかしい思いをしながらもエピソードが収束するころにはキラキラとした原石が心に残されたような、爽やかな風が吹くような気持ちになる事間違いなしです。
全く、今なら絶対うまくできたり言えたりするのに、なぜあの頃は自意識過剰だったり言葉を知らなかったりするのだろう・・。
私は、もう青春ものや恋愛ものの漫画は読めないだろうと思っていました。
実際に体験してきた経験の方が、遥かに辛かったり楽しかったりするからです。
若い子が悩む物語なんて、ちゃんちゃら可笑しくて、読んでいられないだろうと思ったのです。
でも違った。
夢中になってページをめくり、ハラハラとし、ドキドキとし、キュンとさえした。
もう、すっかり忘れてしまった純粋な感動を、自ら放棄していたのだ。
まだまだ自分には感受性が残っている・・。
そんな事も『坂道のアポロン』は教えてくれます。
とても有名な漫画だけど、人生に疲れた時には是非この漫画を手に取ってみて下さい。
それではまた。