画像は『二月の勝者』第21巻(作者:高瀬志帆 出版社:小学館)より表紙を撮影
遂に、漫画『二月の勝者』が完結しました。
12歳の子供達の、中学受験の1年間を21巻にわたり描いた、熱くて濃くて素晴らしい漫画です。
そして、徹頭徹尾、ブレることなく幕を閉じた、作者の執念の作品とも言えます。
本当に、最後の最後まで素晴らしかった。
登場人物が多く、素人目から見ても纏めていくのは大変だったのではないかと思う漫画ですが、その子の特性や性格などが細かく描き分けられていていて、色々な家庭と、その考え方の違いや背景などもカバーされています。
ともすると、「中受一直線」な猪突猛進になりがちなテーマも、それだけではなく、現代の教育問題や貧困などにも切り込み、ひとりよがりな部分が一切なく、読むものを唸らせる。
テーマがテーマなだけに「中学受験は親のエゴ」と、読んでいないと毛嫌いする人もいそうですが、この漫画はそういった毛嫌いする層にまで届く作品として、完結を迎えています。
コレはもう本当に、「すごい」としか言いようがありませんでした。
21巻を読み終えて、夫とも「すごかったね、今回も」という感想会。
夫に至っては、黒木先生の何かを職場で引用したかったらしいのですが、有名漫画でバレたら恥ずかしいので、一応止めておきましたw。
やるなら、最初にどこから引用したのか断りを入れてからやってよね。
子供に強い武器を持たせたい!は、一体誰の言葉か
ところで、『二月の勝者』第21巻。
塾のお別れパーティーから始まるのですが、パーティーの最後に黒木先生の挨拶があります。
これまた圧巻の演説なんですが、その挨拶の中に
「あなた方の将来が明るいように、生きづらい世の中で頑丈な武器を持たせ、生き抜く力をつけてほしい、そういった願いを込めて、皆様の親御さんは、ここ(塾)や進学先にお金をかけてくださっています。」
というセリフがあります。
頑丈な武器とは、言うまでもなく、人生の勝負の瞬間に、同じ土俵に上がれるような学歴や教育の事なのですが、このセリフ、どこかで聞いたことありませんか??
これ、連載序盤の第二巻、武田勇人君のお母さんが、夫に啖呵を切った時に出たセリフのセルフオマージュというか、伏線の回収ですよね。
この部分はドラマでも放映されたので覚えている人も多いと思いますが、最後の「課金ゲー上等!」のセリフには、拍手ものでした。
教育に興味がない訳ではないと思うけれど、今一つ親身になって考えていない夫は、塾の金額に驚いて「そこまでする必要はない」と言うスタンスで、暇さえあればソファに寝そべりスマホのゲームに課金。
そんな温度差の中、「できない自分の子供は塾のいいカモだ。そんな事にお金かけてないで受験から撤退しろ。(かなり意訳)」と言う夫に対して、ブチ切れた妻が
「何がいいカモだ!ゲーム画面のキャラに課金してないで、自分の子供に課金しろ!子供に課金して、クソ強いキャラに育てようとして何が悪い!優人にどんな敵でもラスボスでも倒せる強い武器を持たせたいんだ!そのためなら課金ゲー上等!」
と言うのですが、読んだ当時はものすごい名言だなと思って感動したものです。
この漫画には、名言や名解説、名商談がたくさんあるのですが、このくだりは、作者の高瀬志帆さんも自画自賛のお気に入りだったのではないかと思われます(笑)。
佐倉先生は、桜花の新事業へ行くのか??
さて、今日は本当は『二月の勝者』あらすじとか感想を書きたかったのですが、濃い内容の漫画の感想って、こちらの精神力も使い果たしちゃうので、また元気な時に・・。
で、この漫画で子供同様に成長した佐倉先生。
初めは青臭くって、社会人としての違和感しか感じなかった彼女ですが、その成長具合や、大人になっていく様、適材適所のあり方を理解していく過程も、この漫画は素晴らしく描かれています。
黒木先生は、ボランティアの私塾を開設していますが、都の委託事業として、困窮層へ向けた無償塾が、桜花により発足されます。
こういった福祉事業があることについて懐疑的な人もいるかもしれませんが、実は、結構な自治体数にちゃんと置かれています。
無償塾や格安塾は、一般家庭では通う機会がないので、『信じられない』と思うかもしれませんが、その存在を知らない方は、逆に言うと、恵まれた環境で育ってきたと言えます。
困窮家庭は、金銭面以外にも問題を抱えていることが多く、無償塾では、生徒の扱いやケアも細心の注意や経験や知識が必要だと、作品の中でも説明がされています。
それはそれとして、若いが故に別の意味で高い志を持ち、目線も生徒寄りで、壁も薄い佐倉先生。
実は彼女、その適正を見込まれて、子供に寄り添うことを重視する無償塾への異動を視野に入れられ、新卒として採用がされたようです。
しかし、彼女が選んだのは、中学受験用の桜花ゼミナールへ残ること。
佐倉先生がどちらを選んでも納得ですが、でも、どちらを選ぶのか、こちらもページを捲る手が震えるわけですが、桜花でこの1年を過ごし、彼女は「恵まれた環境がゆえに、12歳での決断を迫られ、親の期待を背負ったり、努力を強いられる子」の頑張りをケアしつつ応援する側への進路を決めました。
作品の中に教育格差を盛り込みながらも、強いテーマを描き切ったこの辺のストーリーの持っていき方も素晴らしく、ラストにエリート教育に関わる考え方をあの人(これはコミックを読んでね)に語らせたのもすごく腑に落ちる内容でした。
腑に落ちるといえば、東京に住んでいる人や、子供から大人まで同じ居住地で暮らしている人にはピンとこない話かもしれないけれど、島津くんの父親の語りも、それを体験した人間にはわかるリアリティがありますが、これも、何の事かはコミックで読んでみてください。
ああ、今日は課金ゲーのセリフ回収の話だけするつもりだったのに、長くなってしまった。
まだまだ書き足りないけれど、力尽きたので、今日はこれまで。
半端ない熱量の漫画を語るには、半端な熱量では書けない・・、と言うことも身をもって証明。
『二月の勝者』をまだ読んだことがない人、途中でフェードアウトしてしまった人、悪いこと言わないから是非読んでみてください。
紙コミックが断然オススメですが、WEBだと、キャンペーンなどで◯巻まで無料とか、全巻無料などもあるようです。
それではまた。