写真は『二月の勝者』第10巻より/高瀬志帆/小学館
中学受験のリアルを描いて話題沸騰の『二月の勝者』。
リアルなだけではなく、そこにある家族の物語や子供たちが成長していく様子などが豊かに描かれ、作品によい風を吹かせています。
第10巻は、いよいよ大詰め。
漫画の内容と発売時期が微妙にかぶり、得も言われぬ臨場感を醸し出しています。
・・・、こっちも娘の大学受験で大変だったんだよ・・・。
さて、中学受験も本番に差し掛かる11月。
黒木先生は、どのようなアドバイスを保護者にするのでしょうか・・???
『二月の勝者』についての紹介記事はこちらです
『二月の勝者』11月の保護者会
地方は1月、東京都は2月。
中学受験の本番まであと数か月となった11月。
桜花ゼミナールでは、保護者説明会が行わていました。
これから受験までの数か月の間、3回のクライシスが家庭を襲うので、心しておくようにと・・。
一度目は、このすぐ後にやってくる、12月の模擬試験の直前。
2度目は、1月受験の頃。
3度目は、ほとんど全員が第一志望とする、東京都の受験時。
これからやって来る模試の直前期には、模試の結果や、思うように上がらない成績、減っていく日数と、焦る要素がふんだんです。
黒木先生曰く「魔」の時期だそう。
逆に、12月の最後の模試の後は、子の実力を受け入れる時であり、そこまでのクライシスが起きないという事らしいです。
中学受験は親の負担も大きいのですが、黒木はこの時期に、「親は女優や俳優になれ」と言い切ります。
親との衝突、それは、小学生のメンタルに、致命的なダメージを与えます。
高校受験や大学受験と違い、幼い小学生にとって親との関係は、思いのほかダメージを受けやすい事柄のひとつなんですね。
とはいえ、子の受験は親にとっても一大事。
追い詰められた状況で、ニコニコ明るい親を演じるのも至難の業。
そこで、黒木はどうしても耐えられない時は、趣味などでガス抜きをするよう促します。
「自分のご機嫌を自分でとれるのは、大人の特権です。」と。
この、大人の自尊心をくすぐるセリフ、さすがですね。
だけど、自分で自分の機嫌を取るっていっても、これ、結構難しいんですけどね・・。
さて、『二月の勝者』10巻冒頭はこんな感じで始まるのですが、この時の黒木先生のプレゼンは素晴らしいです。
試験までの具体的なスケジュールを説明するとともに、適切なアドバイス。
要所要所にメリハリを利かせたアクションを取り入れて、一気に保護者を引き込んで説明を仕上げています。
漫画だというのに、声の抑揚やピリッとした保護者の雰囲気、静止画なのにその場面が動いているように見えるなんて、すばらしいです。
これは本当に、ドラマ向き。
ここまで素晴らしく出来上がっている作品を、改変や脚色などして、ドラマで台無しにしてほしくないなと思います。
それぞれの家庭事情と、子供の成長
結構なボリュームで前半のあらすじを書きましたが、この内容は、『二月の勝者』10巻の、ほんの第一話のお話です。
2話以降は、各家庭の様子など。
本番を前に焦る親の様子や、頑張る我が子を受け入れて、応援体制に入る親の様子が細かく描かれています。
受験生を持つ親なら
み・・、見てきたのか!!?
ってくらいで、心当たりがある人も多そう。
一方、エリートの集まる「フェニックス」では、活気ある授業と落ち着いた様子。
ですが、黒木先生を敵対視する進学塾フェニックスの講師灰谷にとって、自分の塾生である陸斗の双子の兄「海斗」が、一体どこを受験するのか気になる様子。
海斗君は、以前陸斗と同じフェニックスに通ってたんですが、ついていけなくて桜花ゼミに転塾したんですよね。
さて。
各塾主催の模擬試験。
親は大体控室で待つのですが、校門の前ではたくさんの塾や家庭教師のチラシが配られています。
チラシを見て、『このままでいいのか』『家庭教師もつけるべきか』と焦る保護者。
模試で思うような結果を出せずに、志望校変更や転塾の相談をする保護者など、様々です。
この焦る気持ち・・、わかりみすぎて痛いです。
実際、受験直前には、塾はダブルで通わせて、+志望校別のエキスパートに家庭教師についてもらうなんてザラな話で、難関校の受験前には、3カ月で100万単位のお金が吹っ飛ぶことも事実です。
トップの子たちに関しては、それぞれ初めから志があるので、よい兆しが多く、読むこちら側にも元気が貰えるような状況ですが、問題は中堅校を狙う保護者と生徒たち。
そんな中、新人講師の佐倉は、志望校を変更したいと申し出た佳苗の母親と、初めての一人面談を執り行います。
海斗の本当の志望校が明るみに・・。ますます対立する黒木と灰谷
佐倉の一人面談は、無事終了。
正直、私はこのキャラが好きではないのですが、今回の面談は、資料や過去のデータを用いて、具体的なアドバイスとプロの説得の仕方でよくやったなと思います。
大学受験もそうだけど、人生は受験がゴールではありません。
だけど、受験の合格は、分かりやすい成功体験でもあり、頑張った証しが形となって現れる最たるものでもあります。
実際の人生は、入学したところで何をするのか、これからどう生きるのかがテーマとなってきますが、環境というのは、とても大事なんですよね。
そんな話はさておいて、10巻のラストは、海斗の志望校が明らかになります。
弟の陸斗は「麻布」。
兄の海斗は、なんと「開成」が志望校のようで、黒木先生の添削も入っています。
それまでエンジンがかからず、何となく落ちこぼれていて、親にも「無理しなくていい。」と言われていた海斗は、志望校を親友の島津君にしか明かしていません。
(余談ですが、海斗と師匠とよばれる島津順の2人が井の頭公園の神社にお参りする回は最高にいいので是非読んでもらいたい。)
11月の模試で、麻布の合格確率80%をたたき出し、気の緩んだ弟の陸斗が、フェニックスで開成の過去問を解いていた所から、この事が発覚します。
敵対心むき出しの灰谷に詰め寄られる黒木。
ますます対立が深まる2人(といっても、黒木側はそんなに敵対心は無さそう)
焦る保護者たちの群像。
ちょっとの気のゆるみが命取りになるこの時期に、模試で80%を出してしまった、まだまだ小学生の陸斗。
いよいよ迫った受験の行方は・・・??
という所で、10巻終了です。
小学生活最後の6年生。
その6年生の1年を通して、受験や子供の成長を描いた『二月の勝者』。
今まで読んだけど、すごく話がまとまっているので、合格発表で連載が終わるのだろうか・・。
とすると、あと数巻か・・。
すごく面白いので、終わって欲しくないけれど、完成度の高い作品なので、終了するのもいいのかなと思います。
しかし・・、灰谷先生・・。
彼は、悪い人じゃなさそうなのに(実際、佐倉と出会う場面ではとっても好青年だ)、なんとも腹黒い描かれ方をされててちょっと可哀そうなのです・・。
『二月の勝者』は、2021年1月時点で既刊は10。
ドラマにもなる予定で、今からとても楽しみです。
でも、多分ドラマよりコミックスの方が数倍面白いと思われますので、是非読んでみて下さい。
それではまた。