※ 『あさドラ!』第1巻より/浦沢直樹/小学館
『20世紀少年』や『MONSTER』、『YAWARA!』など、数々のヒット作を生み出している鬼才浦沢直樹。
その浦沢直樹が11年ぶりに雑誌『ビッグコミックスピリッツ』で描く不定期連載『あさドラ!』を読んでみました。
表紙がこんな感じだし、「連続漫画小説」とか副題がついていたから、戦後の日本で生きる人々のヒューマンドラマかなと思ったら・・、違った。
浦沢直樹は浦沢直樹だった・・。
『あさドラ!』簡単な紹介とあらすじ
「『あさドラ!』は、戦後から現代にかけて、可憐にたくましく生きた、名もなき女性の一代記」とは、原作の第一巻の導入部ですが、そんな話です、多分。
それだけ聞いてタイトルを見れば、通常だったら某NHKで毎朝やっている連続テレビ小説的な内容を思い浮かべる人が多いでしょう。
私も、そんな人情メインのヒューマンドラマだと思っていました。
浦沢直樹さんはスポーツものも描いているし、そういう事もあるかなと・・。
しかし、確かにこの漫画はヒューマンドラマな部分もあるんですが、なんと立派にSFでありミステリーであり活劇でした。
浅田アサの子供時代から17歳まで。漫画冒頭に出たアレはいったい?
物語の冒頭部分は現代。
多分、2020年の東京オリンピック。
そこに、巨大な何かが現れます。
この21世紀に、映画『ミスト』かはたまた『20世紀少年』に出てきたウィルスをばらまく二足歩行のロボットか。
いきなり予想と全く違うストーリーに、読者(私)は戸惑うばかり・・。
場面変わって1959年(昭和34年)11人兄妹の大家族の中で育った「アサ」は、産気づいた母の為、嵐の中を産科医を呼びに走っています。
ところが、産科から戻る道のりで、逃走中の泥棒に遭遇。
持ち前の正義感から泥棒を追ったアサは、逆に誘拐されてしまいます。
産科で借りた雨合羽に書かれた「田中産婦人科」の文字を見て、医者の娘と勘違いされたのです。
誘拐されたアサは拘束されますが、誘拐犯のおっちゃんと身の上話などをするうちに、2人の間に妙なシンパシーが生まれます。
おっちゃんは、アサの頭の良さや真っ直ぐな性格に心を打たれたようですね。
そのうち嵐がひどくなり、2人は木造の小屋から近くの丈夫なコンテナに避難します。
大雨、洪水、嵐、大きく揺れるコンテナ・・。
この台風は、教科書にも載った「伊勢湾台風」です。
そこで聞いた不思議な嘶きは何だったのか・・。
一夜明けて静かになり、やっと2人がコンテナから出ると、そこは一面の海??
揺れに揺れたコンテナが静かになり、嵐が収まった朝、2人がコンテナから這い出すと、あたり一面海でした。
台風の影響で洪水が起こり、2人が避難したコンテナはそのまま、ノアの箱舟の様に流されてしまったのです。
自分たちがどこにいるのか見当がつかないまま、変わり果てた町を見るアサ。
ややあって、おっちゃんの提案により、アサの家族を空から探そうという事になります。
おっちゃんは昔、一式陸上攻撃機のパイロットでした。
飛行機を手に入れるまで、アサはとある小料理屋に預けられます。
おっちゃん、飛行機のあてはあるらしいのですが大丈夫でしょうか・・?
・・・、アサが預けられた小料理屋の女将の名前は「きぬよ」。
めっぽう気が強いけど、ちょっと訳あり。
ここでアサは、きぬよにおにぎりを握って欲しいと頼みます。
飛行機が到着したら、洪水で立ち往生したり困っている人たちに、空からおにぎりを配るためです。
初めは突っぱねていたきぬよですが、一生かかってもおにぎり代を払うというアサの覚悟に、協力する事になりました。
そうこうしているうちに飛行機が到着。
アサはおっちゃんと共に飛行機で救助活動を始めますが、この時、アサは飛行機の魅力に憑りつかれます。
1巻のラストは水没した町。
ラスト3ページは、年末年始を返上し、作者浦沢直樹さんが一人で描き上げたものだとか。
とにかく描きこみがすごく、水没した町が迫力の画像。
ここで、2人は、巨大な足跡をみつけます。
UMAの正体を突きとめろ!成長したアサと教授の研究
2巻の始まりは、全く別の世界から。
ジャングルで、ガイドに連れられた大学の淀川教授。
教授は巨大生物の研究をしています。
同行しているのは中井戸という、教授の研究室の青年。
そこで教授は、大きな幹につけられた、モンスターの爪痕のようなものを見つけます。
そこでガイドは怯えたように「アサ・・・」と呟きます・・。
この話はここまでなんですが、その後教授は亡くなり、中井戸君は研究室を出されます。
教授の研究はナンセンスと言いながらも研究資料は捨てられず、研究室から出されるときに、こっそりと研究資料を持ち出してます。
実は、教授の研究はオカルトやミステリーなんかではなく、一部の人間には知られていたよう。
この後、中井戸君とアサは出会う事になるのですが、それはまた別のお話。
一方、驚くべき度胸とおっちゃんの入れ知恵により、アサは遂に飛行機を手に入れます。
巨大な足跡にアサの家はつぶされたかに見えますが、アサはまだ家族がどこかで生きていると信じてる。
産まれたばかりの弟を含む兄弟数人は生き残っています。
彼らを助ける時、おっちゃんとアサは、巨大生物の尻尾を目撃していました・・・。
時は移って1964年。
アサは高校生となり、おっちゃんと興した会社で曲芸飛行のパイロットをしています。
お世話になっているのは、あの、きぬよさんの家。
弟たちも大きくなりました。
アサは、アイドルを夢見る友人たちと楽しく高校生活を送っていますが、伊勢湾台風の時に見た巨大生物の事が忘れられません。
だよね~・・、あんなの見ちゃったら忘れろという方が無理な話です。
ある日、きぬよのお店にとある人物がやってきます。
その人物とは、世界大戦時におっちゃんの上司であった男性であり、実はあの巨大生物を追っている政府の上層部の人間でもあります。
アサたちは、唯一あの巨大生物を見た人間として、UMAの正体を突きとめる任務を背負う事になります。
なぜか??
現在の法律では自衛隊の軍事行動はかなり制限されているので、無闇に動くことはできません。
時は図らずも東京オリンピックの直前。
敗戦国日本が、高度成長を成し遂げて、先進国の仲間入りを果たすのに重要な平和の祭典である東京オリンピックに、何かがあってはまずいのです。
巨大生物が現れた場合、被害を最小限に食い止めるため、被害が及ばない所までUMAを誘導するものが必要です。
しかしそこで、万が一戦闘になった場合、そこに自衛隊がいる事は最も避けたい事態だという事だそうです。
かくしてアサ達は、国の重要任務を背負い、招集がかかれば問答無用で現場へ駆けつけなければならないことになりました。
アサの日常は??
巨大生物とは一体??
これから50年以上かけて何が起こるのか・・・??
という感じで、1964年10月9日未明、相模湾で漁船がUMAを発見する所で3巻終了です。
『あさドラ!』第4巻は、2020年8月28日に発売されています。
とにかく情報量が多い漫画『あさドラ!』
とまぁ、こんな感じの話題の漫画『あさドラ!』ですが、この漫画はとにかく情報量が多い、多すぎる。
伏線は多いし、3巻にしてまだ序章の序章(多分ね)。
人情メインの古き良き昭和のターンとミステリーゾーンが融合した世界観は、ゴジラともちょっと違う。
作者の前作『20世紀少年』も、古き良き昭和に、万博というモチーフを用いてSFを描いてますが、大きなくくりで見てしまえば、似ているというか、またかという印象を受ける人も多いと思います。
正直私も『またか』とは思いました。
ただ、今回の作品は、浦沢直樹さんが7年間温めていた作品であり、1巻のラストは自分だけで描き上げたという曰くつき。
登場人物には皆魅力があり、アサ達のセリフには説得力があり力を感じます。
さすが、連続マンガ小説と銘打っているだけあります。
作品を読んでいても、『まだまだ描き足りてないんだろうな、描きたいことが山のようにあるんだろうな』という事が伝わってきます。
今までの所、SFでありミステリーであるけれど、『20世紀少年』のような気味の悪さは感じません。
20世紀少年は、あの気味の悪さがよかったんだけどね。
昭和では割と普通の大家族。
その大家族で育ったアサは、『アサ?そんな子いたっけ??』と、名前すら覚えていてもらえないこともしばしば。
アサは確実に存在している。
でも、『そんな子いたっけ??』・・・。
このセリフは所々に出てきて気になります。
アサという、名もなき女性の1代記。
伏線だらけで山のような情報量のこの漫画。
4巻の時点で、浦沢直樹の地図のどのあたりなのか全く見当つきません。
果たしてまだまだスタート地点なのか、それともまだスタート地点ですらないのかもしれません。
いきなりクライマックス・・・、はないと思うけど、気になります。
(どれくらい続くのかも・・)
『あさドラ!』等、浦沢直樹さんの漫画は電子書籍では読めないことが多いです。
読むなら、紙のコミックを。
小学館のサイトでは、少しだけ試し読みができます。
気になる方は、こちらのサイトでご覧ください。
それではまた。